年間10万人が医療機関外で突然死するとされ、そのほとんどがACSを原因とされている
ACLSプロバイダーコースでは、STMEI患者の特定と管理について述べている

STMEIの救命の連鎖
STEMIからの回復を最大限にするために、患者、家族、およびヘルスケアプロバイダーがとるべき行動が連鎖されている。構成する4つの輪がすばやくつながることで救命効果が高まるといわれている。
- STEMIの警告徴候の迅速な発見と対応
- 迅速なEMSシステムによる出動指令と搬送、および受け入れ病院への到着前通知
- 救急部(または心カテ室)での迅速な評価および診断
- 迅速な治療
目次
はじめに
急性冠症候群(Acute Coronary syndrome:ACS)とは、冠動脈に形成されたプラークの破綻を契機として、その周囲に形成された血栓で自らの血管内腔を閉塞ないしは高度に狭小化することにより、その末梢側の心筋に急性の虚血を生じる疾患である
ACSには、急性心筋梗塞、不安定狭心症、心臓突然死を含む
ACSでは、必ず初回12誘導心電図検査より3つの心電図カテゴリーに分類される
心電図初見からに
- ST上昇型心筋梗塞(STEMI)・・・・・・・急性傷害を示唆する
- 非ST上昇型急性心筋梗塞(non-STEMI)・・・虚血を示唆する
- 非診断的または正常心電図
に分類される
ST上昇型心筋梗塞
ST上昇型心筋梗塞は、発症後間もない時期は一刻の猶予もならない緊急治療が必須であり緊急冠動脈造影ならびに再還流療法が必要である
・1mm以上のST上昇(2つ以上の隣合う胸部誘導あるいは四肢誘導)
・新規左脚ブロックの発生
非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)
胸痛が持続している場合はSTEMIに準ずるが、胸痛が治まり時間が経過している。
場合は保存治療(薬物治療)をまず行い、なるべく早い時期に冠動脈造影を行う
・胸痛や胸部不快感があって、0.5mm以上のST低下、または新規のT波の陰性化を伴う
安定狭心症と不安定狭心症、および心筋梗塞の違いは?
狭心症は、胸の中央またはその周囲の圧迫感または不快感として現れる(激しい痛みではない)安定狭心症に伴う不快感の発症は予測できることが普通で、多くの場合は激しい活動中や強い興奮によって引き起こされる。これは症状であって、冠動脈疾患や急性虚血症状の診断とはならない。胸部不快感は、心筋虚血に伴うことも多いが、他の原因が存在することもあり得る。
冠動脈疾患が存在する場合は、狭心症の原因として最も多く見られるものは、冠動脈粥腫の閉塞または破綻である。狭心症が安定していて、激しい活動や興奮による発症を予見できることがある。
安静時には、固定した冠動脈粥腫があっても十分な血液供給が可能であるが、ストレスがある状態では十分な血液が得られなくなる。粥腫が不安定となると、ACSが発生する。血管の断面積が急激に減少するため、十分な血液が得られなくなる。これが原因で、「不安定狭心症」という臨床所見が生じる。これは安静時や最小労力で長時間狭心痛が起きることを特徴とする。
心筋に損傷を与えるとほど血流不足が深刻になると、心筋梗塞が起きると考えられている。このイベントはしばしば、15分以上わたる狭心症と関連している。
致死的となり得る胸部の不快感の原因として、最も可能性のあるものは?
大半な致死的な胸部の不快感はACSに起因しているが、緊急時の診断では他の疾患も考えられる
ACSとして診断することが不確実な場合は、引き続き評価を進めながら、考えられる診断として次の疾患を考慮する必要がある
- 大動脈解離
- 肺塞栓
- 急性心筋炎
- 自然気胸
- 食道破裂
急性虚血による胸部不快感の典型的な症状
- 胸の中央部で数分間(普通は2〜3分以上)継続する不快な圧迫感、膨満感、絞扼感、または疼痛
- 肩、首、片腕または両腕や顎まで広がる胸部不快感
- 背中や肩甲骨の間まで広がる胸部不快感
- 立ちくらみ、めまい、失神、発汗、吐き気、または嘔吐を伴う胸部不快感
- 原因不明の突然の息切れ(胸部不快感を伴う場合も、伴わない場合もある)
院外おけるACS認識システムの構築
ACS患者はEMSによる病院への搬送を急がなければならない
そのためには、各地域での、心停止への対応およびACSであることが考えられる患者の特定のためのプログラムを構築していく必要がある
そのためプログラムの要素として
- ACSの症状を確認する
- EMSシステムの出動要請
- 迅速なCPRを行う
- 市民救助者によるCPRと除細動プログラムを通じた、AEDによる除細動の実施

JRC蘇生ガイドラインより引用
検査/診断
下記に述べる評価は、再還流療法を遅らせないため救急部到着後、10分以内に完了する必要がある
- 的確な病歴聴取、冠動脈硬化リスクの評価、バイタルサイン、静脈路の確保を行いつつ身体所見を評価し、ショックや末梢循環不全、心不全の合併を判断する
- 12誘導心電図、心筋逸脱酵素、胸部X線撮影を実施し評価する
心筋逸脱酵素
心筋逸脱酵素などの心筋傷害マーカー(トロポニン、CK、CK-MB)などが診断の補助となることがあるが、発症早期では陰性となることを理解しておく必要があるため、現在では、胸痛+心電図で判断し治療を開始するのがより優れた現在のスタイルになってきた
初期治療
胸痛を訴える患者に対して、救急部到着後10分以内で診察、鑑別診断を進めるとともに初期治療を開始する
- 酸素投与
- アスピリン
- ニトログリセリン
- モルヒネ
酸素投与
酸素投与はルーチンではない。酸素飽和度の低下を伴う呼吸困難、低酸素血症、心不全やショックの徴候を認める時には酸素投与を開始する
アスピリン
アスピリンは抗血小板作用を有し、血小板と不可逆的に結合し、血小板の機能を部分的に抑制する。160〜325mgを与えて噛み砕くように単回投与する。
禁忌には、アスピリンアレルギーや活動性の消化器出血などがある
ニトログリセリン
硝酸薬を胸痛持続例に舌下投与する。錠剤でもスプレーでも構わない。症状が改善しない場合は3〜5分おきに計3回まで繰り返し投与する。
【硝酸薬の投与禁忌】
●低血圧
●徐脈・頻脈
●右室梗塞の合併例
●ホスホジエステラーぜ阻害薬の最近の使用
モルヒネ
硝酸薬でも胸痛が改善しない場合は投与する。血管拡張作用もあり。肺うっ血合併に有効である
血圧低下に注意する
早期再還流療法の実施
ACSの中でもST上昇型心筋梗塞(STEMI)は早期の再還流による治療効果が高い
再還流療法には経皮的冠動脈形成術(PCI)、血栓溶解療法、冠動脈バイパス術があるが、主流はPCIである
再還流療法の目標
●救急部到着からPCI 90分以内
●救急部到着から血栓溶解薬静注 30分以内